先に決めておく3つの判断基準
VPSのOS選びで迷ったら、まず次の3つの条件に当てはまるかを確認します。これだけで候補はかなり絞れます。
業務でRHEL互換が必要か。RHEL(Red Hat Enterprise Linux)は企業で広く使われている商用Linuxです。社内のサーバーがRHEL系で統一されている場合や、使う商用ソフトやコントロールパネルがRHEL系を前提にしている場合は、AlmaLinuxかRocky Linuxを選びます。
OSを入れ替えずに長く使いたいか。OSのメジャーバージョンを上げる作業(メジャーアップグレード)は手間がかかり、失敗するリスクもあります。できるだけ回数を減らしたいなら、サポート期間が約10年あるAlmaLinux/Rocky Linuxが有利です。
ネットの手順記事をそのまま参考にしたいか。日本語の解説記事や開発ツールの公式手順が最も充実しているのはUbuntuです。初めてVPSを借りる人や、手順をなぞりながら構築したい人はUbuntuを選ぶと詰まりにくくなります。
どれにも強くこだわりがなく、必要なものだけを入れた軽い構成で安定して動かしたい場合はDebianが候補になります。
比較表:5つの観点での違い
| 観点 | Ubuntu Server(LTS) | Debian | AlmaLinux / Rocky Linux |
|---|---|---|---|
| サポート期間 | 標準5年。Ubuntu Proで延長可能 | 通常約3年+LTSで合計約5年 | 約10年 |
| パッケージ | 比較的新しい | 保守的で安定重視 | 保守的。複数バージョンを選べる仕組みあり |
| 日本語情報 | 最も多い | 多いがUbuntu向けの流用が中心 | 業務向け・CentOS時代の資料が多い |
| 商用ソフト対応 | 対応が広がっている | 対象外になる製品がある | 最も手厚い |
| 系統 | Debian系(apt) | Debian系(apt) | RHEL系(dnf) |
サポート期間とメジャーアップグレードの負担
Ubuntuは2年ごとにLTS(長期サポート版)が出て、標準のセキュリティ更新は5年間です。無償枠のあるUbuntu Proに登録すると、さらに延長できます。LTSではない中間リリースのサポート期間は9か月しかないため、サーバーには使いません。バージョンアップはdo-release-upgradeコマンドで行えます。
Debianの安定版はおおむね2年ごとに出ます。Debianのセキュリティチームによる更新は約3年で、そのあとはLTSチームが引き継ぎ、合計で約5年になります。バージョンアップは、パッケージの取得元の設定を新しいリリース名に書き換えてapt full-upgradeを実行する方法が公式の手順です。
AlmaLinuxとRocky LinuxはRHELと同じく約10年のサポートがあります。VPSを一度構築したら同じOSのまま長く使いたい場合、この点が最大の利点です。弱点は、メジャーアップグレードの手段が限られていることです。ELevateという移行ツールはありますが、実際には新しいVPSを作り直して移行する運用が一般的です。また、マイナーバージョン(9.4から9.5など)が約半年ごとに上がり、更新は基本的に最新のマイナー版にのみ提供されます。dnf updateを定期的に実行していれば自然に追従できます。
パッケージの新しさと安定性
Ubuntuはリリース時点で比較的新しいバージョンのソフトを採用します。新しい言語処理系やライブラリを使いたい開発者には向いています。一方で、snapという独自のパッケージ形式が標準で入る点は好みが分かれます。
Debianは十分にテストされたバージョンを採用するため、リリースから時間がたつとソフトが古く感じられます。新しい版が必要な場合は、backportsという新しい版を安定版向けに提供するリポジトリを使います。標準の構成が小さく、メモリの少ないVPSでも軽く動く点は長所です。
AlmaLinux/Rocky Linuxも保守的ですが、Application Streamsという仕組みで一部のソフトは複数のバージョンから選べます。標準のリポジトリにないソフトはEPELという追加リポジトリで補うことが多く、それでも足りない場合は自分でビルドする手間が増えます。
情報量・日本語資料
日本語の手順記事が最も多いのはUbuntuです。DockerやNode.jsなど開発ツールの公式インストール手順も、Ubuntuを最初に載せていることがよくあります。DebianはUbuntuの手順がほぼそのまま使えるため、実際に困る場面は少なめです。
AlmaLinux/Rocky Linuxは、2024年6月にサポートが終了したCentOS 7の資料や業務向けの資料が参考になります。ただし、古い記事にはyumやiptablesを前提にした手順が残っているので、現行版ではdnfやfirewalldに置き換えて読む必要があります。
コントロールパネルや商用ソフトの対応
cPanelのような商用のサーバー管理パネルは、長くRHEL系を中心に対応してきました。現在はUbuntuにも対応していますが、Debianは執筆時点で対応OSに入っていません。Pleskは3系統すべてに対応しています。対応OSは製品のバージョンによって変わるため、導入前に必ず各製品の公式の対応表を確認してください。
業務用の監視エージェントやセキュリティ製品も、RHEL系を最優先で動作確認していることが多いです。Debianは個人やオープンソースの利用では問題になりにくい一方で、商用ソフトの対応表から外れやすい点が弱点です。
RHEL系とDebian系で運用がどう違うか
両者はコマンドや設定ファイルの場所が異なります。パッケージ管理はDebian系がapt、RHEL系がdnfです。Apacheを例にとると、Debian系ではパッケージ名とサービス名がapache2で、設定は/etc/apache2にあります。RHEL系ではどちらもhttpdで、設定は/etc/httpdにあります。
セキュリティ機能にも違いがあります。RHEL系ではSELinux(プロセスごとにアクセスできる範囲を制限する仕組み)が標準で有効です。そのため、ファイルの置き場所を変えただけでWebサーバーが読めなくなることがあります。SELinuxを無効にして済ませずに、設定の意味を理解して対処する必要があります。Ubuntuでは代わりにAppArmorが使われ、ファイアウォールはufwで簡単に操作できます。自動更新については、Ubuntu Serverではunattended-upgradesが最初から有効です。Debianではunattended-upgrades、RHEL系ではdnf-automaticを自分で導入して設定します。
用途別の選び方と各OSの弱点
初めてのVPS、個人開発、手順記事を見ながら構築したい場合はUbuntu Server LTS。情報量とソフトの新しさが強みです。弱点は、標準サポートが5年なので、長く使うにはアップグレードかUbuntu Proの利用が必要になることと、snapなど独自の仕組みが多いことです。
小さなVPSで必要なものだけを安定して動かしたい場合はDebian。軽さと保守的な安定性が強みです。弱点は、ソフトが古くなりやすいことと、商用パネルや商用ソフトが対応していない場合があることです。
業務でRHEL互換が必要な場合や、10年近く同じOSで運用したい場合はAlmaLinuxかRocky Linux。両者の中身はほぼ同等なので、使いたいソフトの対応表や所属組織の方針で決めて構いません。弱点は、メジャーアップグレードが事実上作り直しになることと、SELinuxやEPELへの理解が求められることです。
最終的に決めかねたら、VPS事業者が用意しているOSイメージの一覧と、使いたいソフトの公式の対応OSを照らし合わせてください。両方に載っているOSの中から、上の3つの判断基準で1つに絞れます。多くのVPSは時間課金や短期契約で試せるので、候補を2つ入れて同じ手順で構築してみるのも確実な方法です。